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日仏都市会議2015
「木質化から考える日仏の都市と建築」

revised: 2016 / 03 / 05

INFORMATION

<日仏工業技術 2015 Tome 61 No.1>への寄稿

さる10月11日、今年で創立60周年を迎える日仏工業技術会の主催で、日仏都市会議2015「木質化から考える日仏の都市と建築」が開催された。
恵比寿の日仏会館ホールを会場に毎回非常にユニークかつ先進的な視点から日仏の都市や建築に迫るこのシリーズだが、今回は「都市の木質化」がテーマである。冒頭「かつて都市が木造を前提にしたことがあったか?」という問いかけがなされたが、城壁をもつ都市にかぎっていえば、もちろん答えは “Non !” であろう。
今年は11月30日から12月11日の予定でCOP21会議 (「気候変動枠組み条約第21回締約国会議」) がパリを舞台に開催されることもあり、地球温暖化対策のひとつとして都市の木質化を検討することも会議の重要なフレームワークとなった。
会議は両国における制度の紹介や実際の取り組みに関する報告が主だったところで、産業界、行政、研究機関それぞれの立場からと、木質建築の可能性として日仏各国のデザイナーからプレゼンテーションが行われた。

「里山資本主義」を標榜する岡山県真庭市からは太田 昇市長自らによる報告があった。平成の大合併により、県の三分の一を占めるに至った林業資源のバイオマス活用、CLTなど新しい建材トレンドへの対応などが紹介された。民間主導で進め、行政による支援を行う、という試みを続けており、「あるものを活かし、地域の魅力へつなげ」ている。政府による「地方創生」が話題になる前から進められてきた取り組みは着実に地域に根付きつつあるようで、一朝一夕では辿り着けない懐の深さを感じさせる。国内外問わず引きもきらぬ視察の対応に追われているようだが、個別の取り組みをみるより、地域のスケールの中で官民がうまく連携して継続的に数々の方策を打ち出している仕組みづくりこそ見習うべきところだろう。
リュック・シャルマソン (フランス木材工業連盟会長) からはフランスの木材産業の様子が紹介された。フランスでもやはり一部の大きな山主を除いて林業の担い手は家族経営の中小企業が中心となっており、日本とあまり変わらないようだ。日本での印象通り、フランスの林業は20世紀、少々遅れをとったと認識されており、今後は気候変動対策の要として都市の木質化を位置づけ、テコ入れを図るという。そのために国内林業団体の包括的戦略的互恵関係を取り結び、さらに公的施策の土台を整えつつある国をはじめとする行政とも手を結んでいる。そのあとプレゼンテーションを行ったギヨーム・ドロンビーズ (エコロジー持続的開発エネルギー省住宅都市計画景観局 (DHUP) 局長) はこの内容を行政の立場から説明し、温室効果ガスを減らすために建築分野が果たすべき役割は大きい、として政府が腰を据えて都市の木質化に取り組む決意を語った。業界団体が一枚岩となり、そこに制度の後押しによる環境が整えば急速に都市の木質化が進むのではないか。
フランス木材研究所のパトリック・モリニエからは、主に同研究所の概要、利用の現状について報告があり、その中でフランスでは今後、行政による制度の用意、連携なった林業団体による供給体制の確立により環境を整え、5〜10階建て中層建築物の2割程度を目処に木質化を図りたい、という具体的な目標値が提示された。
平田 恒一郎 (ナイス株式会社 代表取締役会長 兼 最高経営責任者) は、「日本の木材資源」活用の展望を語った。まず第二次世界大戦後、森林資源が枯渇していた時期があり、加えて防災の観点から都市での木造建築が制限されたため、建築家の木材への知見が失われた時期があったことに触れた。ようやく最近になって、2010年「公共建築物等木材利用促進法」の施行、安倍内閣の成長戦略で林業の成長産業化が掲げられていることから、木材利用の促進が雇用・経済の活性化に向けて重要な位置を占めていることを示した。同社は「安定品質、安定価格、安定供給」の3本柱で国産材を取り扱っているとのことだが、いわゆる上流から下流までその流れすべてに携わっているという。CLTのパネル工法が日本に限らず特に道路幅の狭い都市中では難しいため、軸組と組み合わせた工法の開発が必要なことなど、建設の現場に携わる中で得られた知見に基づく提案は説得力がある。

林業関連のイベントに引っ張りだこの安藤直人 東京大学名誉教授は正に「啓蒙のための実践」を継続している。紹介されたプロジェクトのほとんどが勤務する大学内での計画である。賛否両輪うずまきやすいであろう環境で、構法などの技術、材料、そしてデザインを束ねるプロデューサーとして様々な試行を重ねており、聴講のたび新しい施設の発表が楽しみだ。「木づかい運動」など一貫してわかりやすい言葉と親しみやすいキャラクターで木造建築のファンを増やし続けており、ハーフ・ティンバーの建築物に「木」の文字を読み取ってしまうあたり、ウィットに富んでいて人柄がうかがえる。「伐って、植える」ことによる森の受け渡しの重要性や、木質化が進まない背景には教育の問題があることなどを語りながら、高層化する混構造の木質構造が実現する過程で生まれてくるであろう、これからの時代に即した材料、技術、制度、デザインの開発に期待を寄せていた。
今回フランスから来日した建築家、ニコラ・レネは総勢25名を数えるというスタッフらとともに、いかにも耳目を集めそうなプロジェクトを多く抱え、奔走している。やはり木材を多用したプロジェクトを中心に発表が進んだが、中高層建築物の様々な高さに複層的なバルコニーを備えているのが特徴的である。特に日本の建築家、藤本壮介とのコラボレーションとして計画が進むモンペリエの集合住宅は、巨大なバルコニーが鈴なりに張り出した外観が目を引く。雨が極端に少ない南仏の気候に即した計画だと説明されたが、高層化した居住空間において「植栽」にどういった可能性がありうるかという問いを投げかけているとも言える。木質化された都市のためには材の供給のため適切に管理された森が必須なこともあり、「都市の木質化」と「都市の緑化」はどのように補完しあうのか考えさせられた。
一方、日本からはビルディングランドスケープを共同主宰する建築家、山代悟が、この10年ほどにわたる活動をLVLというエンジニアリング・ウッド (集成材などの編成材) との関わりを切り口に紹介した。彼らは材料・構法開発のワーキンググループに名を連ねるなど、つくり手として積極的に制度にアプローチしていることが特筆に値する。LVLは「大きな木をたっぷり使うことと、繊細な木の使い方が両立できることが魅力」だと語るそのひとつの帰結として、LVLを構造体パネル、内外装仕上げに積極的に採用した「みやむら動物病院」 (ATELIER OPAとの協働) がこの秋竣工した。彼らは日本の都市木造を牽引する大きな力のひとつであるNPO法人 teamTimberize(理事長は腰原幹雄 東京大学生産技術研究所教授)との関わりも深く、そのひとつのあり方を示すべく、2020年東京オリンピックの跡地利用提案「高密度木質都市 TOKYO2050」など都市空間での木造のあり方を問い続けている。彼らのLVLへのこだわりは、そのミルフィーユのような意匠への思いに加えて、都市で使われる木材は性能面から工業製品としての均質化が求められている、ということの現れであるかもしれない。

震災や空襲、大火など災害の記憶とつながりが深い「木造」が、技術面のみならず様々な面でスペックアップした「都市木造」という潮流を得てどのように社会に受け入れられていくか非常に興味深いところであり、その制度がつくられていく過程でデザイナーが果たすべき役割は非常に大きい。
林業の世界では上流、下流、という言い方があるが、考えて見れば我々が日々暮らしのなかで使用している水のインフラは正しくそれそのものである。くらしの中で役立てる木材の姿もその流れになぞらえることに何ら違和感はない。ロジスティクスがここまで発達するまではそもそもそういう経済圏のなかでの話であったはずだ。ナイス株式会社の平田会長も言及していた「流域圏」の視点は今後検討が急がれる地域経済圏を考えていく上でも重要な視座となっている。いずれの国でも輸入材に頼るのではなく、国産材の利用を促進しようということがポイントだろう。都市の木質化により低炭素化を目指そう、というときにロジスティクスで多くの二酸化炭素を出してしまっては意味がない。
林業の現場を訪ねると「植える、育てる、伐る、使う」というように、ひとの一生とは比較できない時間のスケールをもつ自然と対峙している様に感心させられる。「都市の木質化」の普及を下支えする制度をしっかりデザインして、そういった時の流れに堪えうる木質都市を現実のものとしていく必要がある。建物で言うところのスケルトン・インフィルに近い考え方が制度設計においても肝要だろう。
石造、メイソンリーを基本として構築されてきた都市を抱えるストック活用先進国、フランスのような国において、都市のあり方を検討する際、材料としての木材を今後どのように捉えていくのかも非常に興味深いところだ。当座の目標として低炭素化のために都市の木質化を進めるにせよ、材料の更新など長い目で見ると取り組むべき課題も多い。
わが国ではエコポイントなど木材利用に限らず政府の施策は短期的な経済効果を狙ったものに偏りがちだが、社会を形づくる哲学を考えていくマインドセットとして木質化を捉え直す必要もありそうだ。木質都市を目指す、ということはどのような社会を目指すということなのか、私たち自身が認識を新たにする必要がある。

<日仏工業技術 2015 Tome 61 No.1>への寄稿